有名大学の付属中学に通うAくんは、「勉強をまったくしない」との親の訴えでやってきました。やや固い表情でしたが、プラモ作りなど自分の興味のあることは熱心に話してくれました。その知識は相当の内容で感心しました。生徒会に立候補したものの落選した話もしてくれました。

中学生時代は難しい年齢です。発達的にいえば、「自分なりの考えを持つこと」が課題だからです。それまでは、大人の「良いこと」が自分にも「良いこと」でした。ただそれでは大人に判断を依存しているだけです。自分なりの考え、判断基準を持ったことにはなりません。自分の考えができて初めて、人間は自分自身の人生を歩みだすといえます。

Aくんは、正論を吐いて自分を叱る親がたまらなく「いやだ」と言います。中学生だから勉強しろ、朝起きられないようなら夜更かしするな、といった親の意見。実に正当で反論の余地がありません。ところが子どもは、自分なりの考えを確立しなくてはいけませんから、勉強しない、夜更かしするという行動で、善悪を超えて反抗します。反抗しながら、自分なりに納得できる考え方、論理を探していると言えます。プラモに凝り、立候補したAくん。「もがいているんだよね」と話すと、「うん」という答え返ってきました。

ある日、金融機関の支店長を勤める父親がAくんの態度に苛立ち、彼を殴ってしまいました。仕事ではとても有能と評価されている父親には、彼のもがきが見えず、怠惰でスネているだけに思えたのでしょう。

彼は、殴られたことに極端に反発しました。児童虐待と考え、児童相談所や警察に被害を訴えたのです。父親の言動に問題を感じていた母親もこれに同調しました。彼も父に似て、事に当たっては懸命で妥協知らずのようです。

諸機関では、二人の関係修復を目標に関わりを続けています。父親には、この頃の子どもは、注意よりも失敗談も含め親の考え方を聞きたがっていると話しました。こういう親子の話し合いがもっと早くにあれば、あるいはこのような事態には到らなかったのでないかと自分を反省しながらも、強く思います。

<担 当>湯汲英史
1953年生 早稲田大学 第一文学部 心理学専攻卒
(社)発達協会 常務理事 心理・言語担当 言語聴覚士 精神保健福祉士 早稲田大学客員教授