「関わりことば」とは

「大事だからここに置くね」と、絵本を持った三歳の子が話しました。別の三歳の子が「いっしょにあそべて楽しい」とうれしそうにいいます。このふたりの子は、「大事だから」「いっしょにあそべて」と表現しながら、自分の行動の理由や、気持ちを表現しています。

「三つ子の魂、百まで」といいます。ここでの「三つ子」は、数えの三歳ですから満年齢では二歳台といわれます。おおむね二歳から三歳前後の子どもというところでしょう。その三歳の子どもは、「大事だから」「いっしょにあそべて」という理由をいえるようになります。

子どもにとっては、生まれて初めて学んだ、他の人に伝わる理由です。その理由を聞いた大人は、「おりこうさんだね」とか「よかったね」というように、肯定的な答えを返すことでしょう。このことで子どもは、自分の理由(=考え)が受け止められたという充足感を持つのだと思います。また、ほかの人にわかってもらえる理由がどういうものなのかも、あわせて学びます。

人生と初めての理由付け

「三つ子の魂、百まで」は、子どもが興味を持つこと、好きなこと、それに性格は大人になっても変わらないという意味で使われているようです。

冒頭のエピソードで示しましたが、三つ子になれば、子どもは自分なりの理由をいえるようになります。「大事だからここに置くね」と絵本をしまう子は、社会で受けいれられる考え方を学んだといえます。一方で、絵本を放り投げて平気という子がいます。この子は、乱暴だからというよりも、「絵本=大事=大切に扱うべき」ことを学んでいないのかもしれません。

六歳になっても、「ほかの子といっしょでなくていい」と話す子がいます。実際に、ほかの子といっしょにあそべなくても平気です。この子は性格というよりも、「いっしょにあそべて楽しい」という見方を学んでいないのかもしれません。

絵本を乱暴に扱って平気な子は、まわりからきっと叱られることが多いでしょう。それで自己評価を低くしたりします。いっしょにあそばない子は、大きくなっても一般社会に参加できない可能性さえあります。

三つ子になってでてくる子どもなりの理由づけ。「三つ子の魂、百まで」は、子どもなりの初めての理由づけが、その後の人生に影響を及ぼすことを示唆しているのかもしれません。そして、その理由の内容が、子どもの人や物への関わり方を決める可能性があります。

保育園にうかがったときのことです。ことばがまだ出ていない、五歳の自閉的な子どもが、給食のときにテーブルの上のコップを投げようとしました。年輩の先生がすかさず「大事、大事」といって止めました。子どもはコップを投げられませんでしたが、パニックを起こさず席についたままでした。いつもは、止められると怒るとのことでした。先生の表情が必死だったからかもしれません。

もうすぐ二歳という女の子が、「いっしょにすわろ」といいます。この時期では、「いっしょにたべよ」「いっしょにネンネ」もよく聞かれることばです。

大人も、他の人といっしょに暮らせば相手と自分の違いを感じます。違いを感じるのは、相手のことをよく観察するからでしょう。だから考え方や行動様式の違いがわかります。「いっしょに」のことばは、子どもに相手を意識させ、また相手に合わせられるようにすることばといえます。「いっしょに」は、自分とは違う、「他者の存在を発見」させてくれることばともいえます。

大人から「大事、大事」といわれても、真似していう子は少ないでしょう。いわれたときに、キョトンとした表情を見せる子どもが多いようです。ただ真似ないからといって、わかろうとしていないのではないと思います。

さきほどの自閉的な子は、先生から注意されてもパニックを起こしませんでした。それは「大事、大事」ということばの意味や考え方が伝わったからかもしれません。見方を変えれば、子どもの側に「大事」ということばへの感受性が備わっているように思います。

「いっしょに」は、子どもが盛んに使っていたかと思うと、ある時期からあまり使わなくなります。「いっしょに」というのはひとつの考え方です。ひとたび学びとれば、自分の血肉と同じに、意識しなくても使う考え方となるのでしょう。だからか、消えていきます。

「いっしょに」「大事」など、自分自身のことも含め、人や物とどう関わっていけばよいかを教えてくれることばを、「関わりことば」と名付けました。これらのことばを学ばないで育った子どもは、今回のお話しの中に出てきた子どもたちのように、生きていく際にしばしば、困難を抱えることになるでしょう。

この連載では、関わりことばの紹介とともに、どういう場面でどう教えればよいのかについても具体的にお伝えするつもりです。関わりことばは、子どもが社会の中で生きていくための、知恵になってくれると考えています。

<担 当>湯汲英史
1953年生 早稲田大学 第一文学部 心理学専攻卒
(社)発達協会 常務理事 心理・言語担当 言語聴覚士 精神保健福祉士 早稲田大学客員教授