子どもを育てる「関わりことば」

その男の子は、三歳児健診で騒ぎ、クリニック受診した際、発達検査を担当したのが筆者です。

スムーズに部屋には入ったものの、自分の思い通りにはできません。すぐに椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとします。能力的には十分に検査ができそうだったので、お母さんに了承を得て膝に抱きました。当然ですが嫌がって大声で泣き叫びます。抱きながら、「いっしょにやろうね」といいながら、彼ができそうなおもちゃを用いた課題を次々にやりました。二〇分ほどたった頃から、泣き声はおさまり指示に従えるようになり、四〇分くらい経つとひとりで椅子に座って、受け答えができるようになりました。

お母さんは、横にいて内心つらかったのでしょう。涙が出ていました。その回はそれで終わり、二回目にはスムーズに発達検査ができました。

検査が終わったあとにお母さんは、「遊園地で、生まれて初めて騒がずに列に並び待てました」と話してくれました。

赤ちゃんが自分の手をじっと見つめる時期があります。この動作を「ハンドリガード」といいます。おおむね四ヵ月くらいから見られだします。不思議そうに見つめる姿は、自分の手を初めて発見したかのようです。

赤ちゃんは、まずは反射、反応にのっとって動き始めます。あらかじめ仕組まれた反射、反応です。自分ではコントロールできない手足の動きですが、ある時期に自分のからだを「発見」するのでしょう。それが、手をじっと見つめる姿となって現れるのでしょう。

「八ヶ月不安」ともいわれる人見知り。知っている身近な人と、知らない未知な人を区別しだします。身近でない人が抱こうものならば、大泣きとなります。この時期から、赤ちゃんは人との関係性に気づく、つまり人との関係性を「発見」するといえます

子どもは、二歳前後から、「いっしょにすわろ」「いっしょにたべよ」「いっしょにネンネ」ということばを使い出します。

「いっしょに」のことばは、子どもに相手を意識させ、また相手に合わせられるようにすることばといえます。ただ「いっしょに」することを身につけるのは、それほど簡単ではありません。「いっしょに」にするためには、相手の行動をよく見て、自分の気持ちなどをコントロールしながら動きに合わせていかなくてはならないからです。

まだ自分をコントロールする力も、見通す力も弱い年齢でもあります。いっしょにしたくても長続きはしません。ただいっしょに何かをしたいという気持ちが生まれ、それをめざそうとの意欲は、社会性の発達にとっては大切です。

二〇歳の彼は作業所に通っています。ある時期から、作業所の近くの交差点である指導員を待つようになりました。その人が来るまで何時間も動かず、「こだわり行動=問題行動」と見なされていました。彼はちょうど二歳前後の理解年齢。きっと、いっしょに誰かと、何かをしたくなってきたのでしょう。

これが作業所の仲間といっしょに作業するのならば、問題でありません。たまたまその相手がずれてしまいました。こういう場合は怒ってもダメです。いっしょにすべき相手を変えるように働きかけます。具体的には、「○○くん(作業所の仲間の誰か)といっしょだね。楽しいね。いっしょにできるね」と話しかけたりします。

二三歳の彼も作業所に通っています。彼は指導員から、自己流の服の着方を、実演つきで修正されました。そのあとです。彼は服の着方に気持ちが向きすぎて、お母さんの話では「一〇〇回でも自分の納得する着方ができるまで」やるようになりました。

彼に「作業所で皆といっしょは楽しい?」と聞くと「楽しい」といいます。小学校、中学校の頃のことをたずねても他の子たちと「いっしょで楽しかった」といいます。実際の小学校、中学校の生活は大変だったようですが。それでも彼は楽しいと思ってきました。ただ矛盾は、いっしょが楽しくても、「まったく同じこと」ができないことではないかと思います。だから目に焼きついた指導員の動きを再現しようと、しつこく繰り返します。

「それで大丈夫、いっしょだね。上手になった」と話し、結果だけではなく努力している点も認める必要があります。

「いっしょに」は、子どもが盛んに使っていたかと思うと、ある時期からあまり使わなくなります。その理由は、ひとつには「いっしょ」の良さ、楽しさが当たり前のこととして、了解できたからと思います。あえて口に出すほどのことではなくなるともいえます。

その一方で、他の人間といっしょにやるは難しいと実感するようにも思います。楽しい、けれども難しいと子どもは感じながら、「自分と他者」の違いを発見していくのかもしれません。

社会性の発達にとり、「いっしょに」は学ばなくてはいけない関わりことばの大切なひとつです。

次回は、発達につまずきを持つ子は、なぜ「いっしょに」を学びにくいのか、なぜ「いっしょに」を学ぶことが大切なのかということを、その教え方とともに考えていきます。

<担 当>湯汲英史
1953年生 早稲田大学 第一文学部 心理学専攻卒
(社)発達協会 常務理事 心理・言語担当 言語聴覚士 精神保健福祉士 早稲田大学客員教授