子どもを育てる「関わりことば」

お母さんが舌を出すと、真似して赤ちゃんも舌を出すことが知られています。サッカーやバレーボールの試合をテレビで観た後に、疲労感が残ることがあります。スポーツを熱心に見ていると、たとえばサッカーのシュートの場面では、脚などの筋肉を動かす自分の脳の部位が反応しているそうです。実際に動いてはいなくても脳は働き、だから疲労感が残るのでしょう。

このように、見ている相手の動きを自然に真似することを「模倣」といいます。この模倣は、脳の中にある「ミラーニューロン」によって起こることがわかってきました。ミラーニューロンの発見ですが、この十年の脳科学では最大の発見とされているそうです。

ミラーニューロンの働きは単に身体の動きだけではありません。相手の身振りや表情などを見たりすると、それを作り出す自分の脳の部位が働きます。そのことで、相手の気持ちや心理を読み取っているとされます。コミュニケーションの土台ともいえる、脳の働きです。

前回、ほかの人と「いっしょ」は楽しいけれど、実際に「いっしょ」にやるのは難しいと述べました。そういう傾向がある子は、真似が苦手ともいえます。真似がうまくできない場合ですが、幾つかの理由が考えられます。

1.からだの動かし方がわからない
ボディイメージが未熟な子です。運動などを通して、からだの動かし方をわかってもらいます。(参考図書倉持親優著「うごきづくりのすすめ」かもがわ出版)

2.はじめや終わりのときがわからない
音楽に合わせて歌うときに、歌い始めがわからないと、立ち往生してしまうことがあります。子どもの中には、動くときにスタートをうまく切れない子がいます。こういう子は、始まりの際に介助するなどで、スタートを教えます。次の動きが始まっているのに、それが真似られない子もいます。区切りや終りがわかりにくい子です。動きと動きの間に静止動作を入れる、ひとつひとつの動きに番号をつけていう、などで違いをはっきりさせた方がいいでしょう。

3.何を、どう真似すべきかわからない
たとえば縄跳びを真似する場合です。手首は回転、足は上下と動きがばらばらです。首は動かさないようにします。どこか一つでなく、三つの部位に注目し、それらの動きを真似なくてはなりません。何を、どう真似ればいいのかわからない子には、動きの介助やことばで示す必要があります。このほかにも、集中力や持続力などに問題がある場合もあります。

呼びかけても反応が返ってこないなど、人への意識が希薄なために真似をしない子がいます。こういう子にこそ「いっしょに」を教えていく必要があります。「いっしょに食べる」「いっしょに寝る」「いっしょに着替える」などを通して、人への意識を高めていきます。

話はかわりますが、専門家の多くは幼児や学童期の自閉的な子が三十年前と比べて落ち着いてきたと感じています。この理由のひとつに、早期からの対応が考えられています。以前と比べて、早い時期から大人や子どもといっしょに活動する体験が増えてきました。そのことが、人への意識や、いっしょに行動する力に良い影響を与えていると思われます。

「いっしょに」を教える際に、もっとも効果的なのは「歩くこと」のようです。いっしょに横に並び歩く、先にも横にも出ないようにし、同じスピードで歩くように教えます。

空間としては、広々とした所ではなく、廊下などある程度狭く距離が短い場所ではじめるとよいでしょう。それができてきたら、ハイキングや山登りもよい練習の機会となります。

「いっしょに歩く」のは、なかなか難しいのですが、これができるようになると「いっしょに座る」ことも可能になってきます。歩くことで人への意識が高まり、それがほかの動きを真似ることにもつながっていくように思います。逆にいえば、「ほかの人といっしょに」ができない子は、いっしょに歩くことができません。

「いっしょに」ができるようになる頃、ことばの真似も盛んになります。知らないことばを真似するいわゆる「ことばの爆発期」です。同じ音やことばをいっしょにいうなど、ことばへの感受性を高めるようにします。

歌える子では、いっしょに歌うなどを通し、相手の声の調子やテンポに合わせられるようにします。

お絵かきや、折り紙、料理など、さまざまな活動を通して、いっしょにできることを増やしていきます。

<担 当>湯汲英史
1953年生 早稲田大学 第一文学部 心理学専攻卒
(社)発達協会 常務理事 心理・言語担当 言語聴覚士 精神保健福祉士 早稲田大学客員教授