子どもを育てる「関わりことば」
【はんぶんこ】上 …相手への思いやりをうながすことば
人にあげられない
何か手に持っている一歳過ぎの子に、筆者が「ちょうだい」といいます。子どもは、自分のお気に入りのおもちゃやお菓子だったら、背中の方に隠して渡そうとしないでしょう。「自分の」という意識がはっきりとしてきた証拠です。そういう意識がないときには、「ちょうだい」といわれると渡します。ところが「自分の」がわかってくると、お母さんや物、場所(自分の椅子など)を取られまいとします。人から「ちょうだい」「貸して」といわれても、渡せなくなります。
噛み付きが問題になるのは、一、二歳の子が集まる保育園だそうです。年齢の離れた兄弟姉妹では、噛み付きはほとんど見られないといいます。一歳台の同年齢の子どもが集まると、「自分の」意識が高まるために、他の子の物などを奪おうとします。取られる側は、「自分の物」ですから、取られまいとします。それで結局は取りあいになります。まだことばの力が十分でない時期です。子どもたちは実力行使に出てしまいます。それが叩く、髪を引っ張る、そして噛み付き行動となります。
本当はあげたくなかった
その男の子が四歳のときでした。自閉的な彼がミニカーを持っているとき、「ちょうだい」といって手を差し出しました。そのときは、いわれたままに平気で渡しました。
半年後に会い、その子に同じことをしました。「ちょうだい」というと、このときもミニカーをくれました。ところがそのあとに、大泣きとなりました。「ちょうだい」といわれて手を差し出されると、反射的に渡してしまいました。でも内心ではあげたくなかったから、大泣きになったのでしょう。
それから数ヵ月後、同じことをしました。このとき彼は、渡さずにミニカーを背中の後ろに隠そうとしました。当然ですが大泣きはありませんでした。自閉的な子では、内心とは裏腹の行動をとることがあります。それがパニックにつながることがよくあります。
実際には、内心とは違う行動をとり騒ぐ姿は、通常の発達でも見られます。ただ、あっという間に渡さなくなるので笑い話で終わってしまいます。
人にあげられる
「はんぶんこ」は、「いっしょに」のあとに続いて出てきます。おおむね二歳前後からです。「いっしょに」は、他者の存在や動きに気づかせてくれることばです。他者を意識できたあと、「はんぶんこしよう」というように、食べ物を分け与えるときに「はんぶんこ」は使われだします。「はんぶんこですわろ」といいながら、自分の席や場所を分け合うことができるようになります。「はんぶんこであそぼ」というと、おもちゃを交互に使える姿が見られだします。
人にあげられないことの問題
「かして」といわれても、貸せない子がいます。しつこく「かして」といわれると、こういう子はまわりの子たちが自分に意地悪していると思う可能性があります。三歳を過ぎて「好き|嫌い」がわかってくると、強く「みんな嫌い」と思うようになるかもしれません。
二歳一〇カ月の男の子でした。緊張した表情をしていました。単語での会話しかなく、園では自分ひとりであそびます。ほかの子たちが近づくと背を向けます。先生たちは自閉症ではないかと考えていました。ところがお母さんは、家ではおしゃべりもするし笑い顔も見せると連絡帳に書いてくるそうです。
この子に、手に持っている電車を「かして」といいました。案の定、電車を筆者に渡せませんでした。これまで「取られたくない」思いが強くて、緊張しながらの一人あそびになっていたのでしょう。一人っ子の彼は、家ではおもちゃを取る子がいません。邪魔をする子がいませんから、伸び伸びとあそべるのでしょう。
先生たちには少々強引にでもいいから、人に物をあげる体験をさせるように話しました。物をあげることの大切さをお母さんにも話して、家でもそういう対応をするようにしてもらいました。
場所へのこだわり
知的能力としてはボーダーラインで堅さを感じさせる彼は、小学校五年生でした。この子の大きな問題は、席へのこだわりでした。五人家族で外食します。このときに彼は、自分で自分の席を決めます。それを変えようとすると大騒ぎです。学校でも、いつもと違う席に並ぶグループ学習のときなどに問題が起こりました。人間はもともと、自分の座る席や、居場所は気になります。
席にこだわる彼には、一つの椅子にはんぶんこで座りながら、パソコンで学習するようにしました。席にこだわるのはおかしいと理屈でいっても納得しないからです。はじめは嫌がっていましたが、徐々に慣れていきました。「はんぶんこですわろ」は、席や場所への必要以上の注意を減らす効用があるのかもしれません。家でも、はんぶんこで座って、勉強するようにしました。またくじ引きで、その日の食事の席を決めるようにしました。これで、彼への席のこだわりは薄れていきました。